除電器のQ&A応用編

静電気対策の基礎知識、静電気による障害や破壊、除電器に関するよくある質問と回答をまとめています。

除電器を効果的に利用するためには、除電器の設置方法が非常に重要になります。
特に以下の2点に注意が必要です。

  1. どこに設置するか

    除電器の設置場所によって除電効果は大きく変わってきます。

  2. どこに向けて除電するか

    帯電しているとはいえ、どこに向けても除電効果があるというわけではありません。場合によっては全く除電効果が出ない場合もありますので、除電器の向きにも注意をする必要があります。

    除電器はコロナ放電により針先からイオンを生成し、放出しています。イオンは金属などの導体に引きつけられる性質がありますので、除電器の周辺に導体があると発生したイオンが導体に引き寄せられます。その結果、除電対象物に供給されるイオンは減少しますので、除電効果が半減してしまいます。正しい設置方法を心がけ効果的な除電を行いましょう。

    ポイント

    SJ-Hシリーズは、従来比2分の1というクラス最小ボディを採用。設置場所をとらない省スペース設計で世界最速除電を実現しました。
    また、より極小エリアを除電したいというお客様のために、高性能マイクロ除電器SJ-Mシリーズもご用意しています。

除電器の周囲に金属などの導体がない場所に設置することが重要です。 除電器周辺に導体がある場合、次の2つの弊害が考えられます。

  1. 除電対象物に到達するイオン量が少なくなり、除電速度が遅くなる
  2. 除電対象物に到達するイオン量が除電されるごとに少なくなり、除電しきれない

それぞれのメカニズムについてご説明します。

  1. 除電対象物に到達するイオン量が少なくなり、除電速度が遅くなる。

    除電器の設置場所周辺に導体があると、導体内部で「静電誘導」が起こり、導体表面が電極針に印加している高電圧と逆の極性に帯電する現象が発生します。これにより、電極針から発生したイオンが導体表面に吸い寄せられ、除電対象物に十分なイオンが供給できなくなります。

    1. 除電対象物に到達するイオン量が少なくなり、除電速度が遅くなる
  2. 除電対象物に到達するイオン量が除電されるごとに少なくなり、除電しきれない。

    除電対象物の帯電量が大きい場合は、イオンが導体に引き寄せられる力より、対象物と引きつけあう力の方が強いため、除電器から生成されたイオンは対象物に向かって除電が行われます。しかし、対象物が除電されていくに従って対象物の帯電量が小さくなると、導体に引き寄せられる力の方が強くなり、イオンが対象物に届かず除電しきれなくなります。

    2. 除電対象物に到達するイオン量が除電されるごとに少なくなり、除電しきれない

    これらの理由から、除電器の周辺に導体が存在すると、対象物を効果的に除電することができません。設置する際は、近くに導体がないか十分注意してください。

帯電した物質と逆の極性の電荷が導体の表面に現れ、互いに引き寄せあう

帯電した物質と逆の極性の電荷が
導体の表面に現れ、互いに引き寄せあう

導体に電荷が近づくと、クーロン力によって導体(金属)内にある自由電子が導体内を移動し、導体表面が帯電したような状態になります。この現象を「静電誘導」と呼びます。

導体からはできる限り離したほうが影響は少なくなりますが、
目安として、弊社のSJ-Hシリーズであれば以下のような条件があります。

  • 針先から導体までの距離が150mm以上
  • 除電バー端面部から150mm以上
  • 除電バー厚み方向200mm以上
除電器と導体の間はどの程度離せばいいのですか
除電器と導体の間はどの程度離せばいいのですか
※注)
上記は導体の影響を最小限に抑えるために必要な距離です。
記載された距離より近づけた場合も除電器の使用は可能です。

除電器を設置する際、周囲に導体がない場所に設置することが基本となります。しかし、設置の都合上どうしても導体との距離が離せない状況があります。
この場合でも、可能な限り導体から距離を離して、除電能力の低下を最小限に抑えます。

導体との距離が離れるに従ってイオンが引き寄せられる力は弱くなります。逆に導体との距離が近づくほど、イオンを引き寄せる力は強くなり、より多くのイオンが導体に吸収されてしまいます。このように、引き寄せられる力が距離に依存するという関係性は、「クーロンの法則」として知られています。

クーロンの法則:

クーロンの法則
Q₁、Q₂
帯電した物質の電荷量
帯電した物質間の距離
ε
真空の誘電率
F
引き寄せられる(反発する)力

この関係式は帯電した物体同士の間に働く力の関係を示しています。式を見ると、引き寄せられる力は距離rの2乗に反比例していることが分かります。距離が2倍離れるとクーロン力(引き寄せる力)は4分の1になります。設置の関係上、どうしても導体周辺で使用しなければならない場合も、できる限り除電器と導体の間の距離を離して、除電能力の低下を最小限に抑えます。

導体から距離を離す方法として、以下のような設置例があります。

【例1】除電器を傾けて設置する

  • 【例1】除電器を傾けて設置する
  • 【例1】除電器を傾けて設置する

    除電器を傾けた分だけ距離を離す
    ことができます

【例2】針先を導体よりも前に出す

  • 【例2】針先を導体よりも前に出す
  • 【例2】針先を導体よりも前に出す

    針先を導体より前に出すこと
    で距離を離すことができます

中和された状態で見かけ上0V

除電対象物の周辺に導体があるとうまく除電できない場合があります。
例えば、帯電したシート材の背景に金属ローラーがあると、金属ローラー内で「静電誘導」が起こり、金属ローラー表面に帯電物と逆極性の電荷が集まってきます。そのため、金属ローラー付近ではシート材の表面の静電気が静電誘導によって集まってきた電荷と結合しているような状態(電気的に中和されている状態)となるため、この場所に除電器を向けても除電効果を得ることはできません。

中和されている場所は帯電量が見かけ上0Vのため、除電器から供給したイオンが吸着されず、除電できません。見かけ上0Vの中和点を過ぎた後に除電器を設置することで、より効果的な除電をすることが可能となります。

見かけ上0Vなので除電効果が得られない 周囲に導体が無い場所を除電することで、除電効果アップ!

ポイント

SJ-HシリーズではDual I.C.C.制御※によって、より高速な除電を実現しました。
移動速度の速いフィルムの除電にも対応できます。

※補足 ~Dual I.C.C.制御とは~

従来から定評のあるI.C.C.機能をさらに進化させました。従来のパルス幅の可変によるイオン生成量のコントロールに加えて、新しく印加電圧の変化も可能にすることで、単位時間当たりのイオン生成量のコントロールがよりひろく可能になりました。温度や湿度など環境に起因する帯電量の変化、また電極針の状態に対してより最適な除電が実現できます。

Dual I.C.C.制御動作方式
Dual I.C.C.制御動作方式

除電器を運用する上で重要なのが、「除電器のメンテナンス」になります。除電器は使用するにつれて、除電速度が遅くなったりイオンバランスが悪化するなど、徐々に除電能力が悪化します。除電能力を維持するためには適切なメンテナンスが必要になります。

除電器の能力が劣化する原因としては以下の2つが考えられます。

1) 電極針の磨耗

電極針が磨耗することで、電極針先端の電界強度が弱くなります。それに伴い、コロナ放電が発生しにくくなります。コロナ放電が発生しにくいということは、イオンの生成量が落ちるということになりますので、除電速度が遅くなります。また、+と-の電極針で磨耗量が異なりますので、イオンの減少量も異なり、それによってイオンバランスが悪化します。

-側の電極針の磨耗
-側の電極針
+側の電極針の磨耗
+側の電極針

上記写真のように、+と-の電極針では磨耗量が異なり、それに伴ってイオンの発生量に差が発生します。このことから、DC方式やパルスDC方式のように+と-の電極針が別々になっているタイプの除電器のほうが、AC方式やパルスAC方式の除電器よりも磨耗による能力劣化の影響が大きくなります。

針先磨耗による除電能力への影響
DC パルスDC AC パルスAC
× ×

2) 電極針の汚れ

電極針が汚れることによって、電極針先端の電界強度が弱くなります。
それに伴って、コロナ放電が発生しにくくなり、生成されるイオン量が減少し、除電速度が遅くなります。
また、下の写真のように+と-で汚れ方が異なりますので、イオンバランスも悪化します。

-側の電極針の汚れ
-側の電極針
+側の電極針の汚れ
+側の電極針

+と-の電極針では異物の付着具合が異なり、それに伴ってイオンの発生量に差が発生します。このことから針先磨耗と同様に、DC方式やパルスDC方式のように+と-の電極針が別々になっているタイプの除電器のほうが、AC方式やパルスAC方式の除電器よりも針先汚れによる能力劣化の影響が大きくなります。

針先の汚れによる除電能力への影響
DC パルスDC AC パルスAC
× ×

このように除電器の能力劣化の要因が2つありますが、針先磨耗による影響は比較的長期(1~2年)であるのに比べ、針先汚れは短期(数週間~数ヶ月)で頻度が高いことが特徴です。このため、除電器の運用に関しては、磨耗よりも針先汚れを防止することがより重要になります。

原因として、以下の2つのパターンがあります。

1) 物理的要因

大気中に浮遊しているパーティクルが帯電することによって、電極針周辺に引き寄せられ付着します。

2) 化学的要因

コロナ放電によってイオンを発生させる際、電極針周辺の大気を電気的に分解していますが、この際、大気中に気体として存在しているシロキサン(シリコン系物質)が酸化され、二酸化ケイ素として電極針先端部に析出し、電極針先端に付着します。

+イオンの発生時は、電子や-に帯電した分子が電極針先端に衝突することで、電極針先端に付着している異物を削り取るため、付着量が少なくなります。-イオンの発生時は、電子が電極針先端から放出される際に、放出する向きに異物付着が成長するため、付着量が多くなります。

下図のように、+と-の電極針先端で発生している現象が異なることで、電極針汚れの量が異なる結果となります。このことによって、除電速度の劣化だけでなくイオンバランスの悪化にもつながります。

プラスイオン発生時
プラスイオン発生時

衝撃で飛ばされる

マイナスイオン発生時
マイナスイオン発生時

衝撃が無いので結晶が成長

この場合、-イオンの発生量が+イオンの発生量よりも少なくなるため、イオンバランスは+側にずれる傾向にあります。

メンテナンス方法としては、以下の2パターンがあります。

1) 綿棒による清掃

綿棒にIPAもしくはエタノールを染みこませた状態で、針先を清掃します。

2) 超音波洗浄器による清掃

超音波洗浄器でも電極針の清掃を行うことができます。大量の電極針を一度に洗浄する場合に便利です。乾燥させる際は、80℃環境の下、2時間程度電極針を放置してください。
洗浄に使用する際の液体はIPA(イソプロピルアルコール)、エタノール、純水を用います。
また、弊社最新除電器のSJ-Hシリーズでは、専用の電極針クリーニングキットをご用意しました。専用クリーニングキットを使用することで、メンテナンスにかかる手間を大幅に削減することができます。

従来までの除電器は、針先が大気に触れてしまうため、どうしても針先への異物付着を防ぐことができませんでした。そこで弊社最新の除電バー、SJ-Hシリーズでは、新設計の「シースエアガイド構造」を採用することで、メンテナンス回数そのものを減らすことに成功しました。

■シースエアガイドとは?

一般的な除電器の場合、供給されたエアは針先に触れることなく前方に押し出されます。そのため除電能力は向上しますが、針先へのゴミ付着防止には効果的ではありませんでした。新構造のシースエアガイドでは、エアが電極針を包み込むようにして前方に押し出すため、針先への異物付着を効果的に防止します。エアは長い流路を経て非常に均一な層流となります。更にエア出口の凹構造が外乱を防ぎますので、抜群のシース効果を発揮します。

一般的な除電器の電極針
一般的な除電器の電極針
SJ-Hシリーズのシースエアガイド
SJ-Hシリーズのシースエアガイド

下の写真は、SJ-Hシリーズと従来機種を、同じ環境下で24時間・2.5ヶ月間稼動させたときの電極針先端の様子を比較したものです。

SJ-H:針先写真(150倍)
SJ-H:針先写真(150倍)
従来機種:針先写真(150倍)
従来機種:針先写真(150倍)

従来機種は針先の異物付着が見られますが、SJ-Hシリーズの電極針では針先への異物付着がほとんど見られないことが分かります。

下のグラフは、SJ-Hと従来機種を長時間稼動させたときの除電時間を比較したデータです。

SJ-Hと従来機種を長時間稼動させたときの除電時間を比較したデータ

従来機種は時間が経つにつれて除電速度が遅くなっていきます。一方、SJ-Hシリーズは2ヶ月以上経過しても除電速度は全く変化していません。

■シースエアガイド構造のメリット

  1. 電極針の汚れを防止できるため、除電能力の経時的な劣化が格段に軽減
    →能力の高いままに長期に運用可能
  2. 電極針をエアが包み込む構造となっているため、電極針の汚れが防止できる
    →従来比、5倍以上の省メンテナンス性を実現
  3. 均一な層流で針先を包み込むため、針先付着物の放出を低減

静電気ドクター トップへ戻る