除電器のQ&A基礎編

静電気対策の基礎知識、静電気による障害や破壊、除電器に関するよくある質問と回答をまとめています。

静電気対策の方法は、対策を施す対象が導体か、あるいは絶縁体かによって変わります。
導体の場合は接地をする、絶縁体に対しては導電化・湿度管理・除電器による対策が一般的です。

接地

接地

導体は電気を流す性質を持ちますので、接地しておけば発生した静電気が速やかにアースへ逃げていきます。
コストがかからず簡単に静電気対策ができますが、電気を流さない絶縁体には効果がありません。

導電化

絶縁体に導電性を持たせる対策方法で以下の2通りの方法があります。

  1. 帯電防止スプレー(界面活性剤)
    絶縁体に界面活性剤を吹きかけ、水の膜で表面を覆う方法です。
  2. 絶縁体に導電性物質を練り込む
    カーボンや金属粉を絶縁体に練り込み、絶縁体の抵抗値を下げる方法です。

湿度管理

空間の湿度を管理する方法です。
一般的に相対湿度が65%を超えると静電気は発生しにくいと言われますので、それ以上に湿度を管理して静電気を発生させません。
広い領域まで対策が行えますが、コストが高い、管理が難しいなどのデメリットがあります。

除電器

+、-のイオンを生成し、静電気を中和する装置です。
非常に高速かつ高精度な静電気対策が可能ですので現在一番ポピュラーな方法です。

除電器は周囲の空気分子を半ば強制的にプラスあるいはマイナスに電離させて空気イオンを生成しています。
生成した空気イオンを帯電物にぶつけて、静電気を中和させます。

除電器とはどのようにしてイオンを生成し、静電気を中和しているのですか?

除電器の種類は空気分子の電離方法で「コロナ放電方式」と「光照射方式」に分かれます。
コロナ放電方式はコロナ放電という放電現象を発生させて、発生した放電エネルギーによって空気分子を電離する方法です。光照射方式は紫外線や軟X線などを照射して空気分子を電離させる方式です。

コロナ放電式の除電器とは図のように電極針、高圧電源部、アースの3点から成り立ち、コロナ放電と呼ばれる放電現象を利用してイオンを生成する除電器です。
コロナ放電とは針のように尖ったものに高電圧(一般的に3kV以上)を印加した場合に起こる現象で、この時発生した放電エネルギーによって周囲の空気分子をイオン化させています。

コロナ放電式の除電器とはどのような除電器ですか?

電極針に+の電圧を印加すると大気中の水分子が電離されて+イオン化し、-の電圧を印加すると大気中の二酸化炭素や酸素が-イオン化します。
電極針への印加電圧と同極性のイオンが生成されるため、生成と同時に反発力(クーロン力)により、イオンは前方に押し出されます。

+イオン発生の様子

+イオン発生の様子

図のように電極針に+の高電圧を印加すると、電極針周辺の空気分子から電子を剥ぎ取ります。このことで、電子を剥ぎ取られた分子は+に帯電し、これが+イオンとなります。電極針に+の電圧を印加していますので、電極針に反発して+イオンが対象物へ向かいます。

-イオン発生の様子

-イオン発生の様子

図のように電極針に-の高電圧を印加すると、電極針から電子が放出されます。この時、飛び出した電子が電極針周辺にある空気分子に衝突して-に帯電し、これが-イオンとなります。
電極針に-の電圧を印加していますので、電極針に反発して-イオンが対象物へ向かいます。

除電器に求められる能力として、「除電速度」と「イオンバランス」があります。
除電速度が速く、イオンバランスが良い除電器が「良い除電器」と評価されます。

除電速度

除電速度

「除電速度」とはどれだけ速く対象物を除電できるかを表す指標で、通常元の電圧から1/10になるまでの時間で評価します。

当然ながら、除電時間が短いと「良い除電器」と評価されます。

イオンバランス

イオンバランス

「イオンバランス」とはどれだけ対象物を0V近くまで除電できるか、どれだけ0V付近を保つことができるかを示す指標で、±何V以内と評価で評価します。

当然ながら、0Vに近いと「良い除電器」と評価されます。

除電器の能力は電極針への電圧の印加方法、電圧印加方式によって決まります。
電圧印加方式にはDC、AC、パルスDC、パルスAC方式の4種があり、それぞれ除電能力に特徴があります。

DC方式

+、あるいは-の直流電圧を電極針に印加し続ける方式です。図のようにイオン発生領域が広いので除電速度は速くなります。ただし発生イオンの極性が限られますので、イオンバランスが悪くなります。

DC方式

AC方式

交流の電圧を電極針に印加する方式です。DC方式と比較すると+と-のイオンを交互に発生させていますのでイオンバランスが良いことが特長です。ただ、イオン発生領域は狭いので、除電速度は遅くなります。

AC方式

パルスDC方式

構造としては+イオンを発生させる電極針と-イオンを発生させる電極針があり、それぞれに直流の電圧を交 互に印加しています。除電速度はDCほどではありませんが、AC方式と違ってイオンの発生領域は矩形波で表されますので、速いのが特徴です。また、+と-のイオンを交互に発生させていますので、イオンバランスも良い方式になります。
除電速度が速く、イオンバランスも良い方式ですが1点だけ注意点があります。

パルスDC方式

注意点:パルスDC方式の場合、バータイプの除電器は使い方に注意が必要!

注意点

図のようにバータイプの除電器を使用する場合、バーの長手方向で見ると+イオン、あるいは-イオンしか発生しない領域が存在しますので、バー長手方向のイオンバランスが悪くなります。特に除電対象物との距離が近い場合は、除電条件に見合うかどうか気をつける必要があります。

パルスAC方式

電圧の印加方法としてはパルスDC方式と同じで、+直流電源と-の直流電源があり、それらを交互に印加しています。従って除電速度もイオンバランスも優れた方式です。

パルスDC方式との違いは電極針になります。パルスDC方式は+と-のイオンが出る電極針が決まっていましたが、パルスAC方式は1本の電極針から+と-両方のイオンを発生させています。
これにより問題視されていた長手方向のイオンバランスが良くなっています。

パルスAC方式

除電速度が速く、イオンバランスも良い、更に長手方向のイオンバランスにムラがないということで、近年ではパルスAC方式が最も優れた電圧印加方式として評価されています。
弊社除電器SJ-EシリーズもパルスAC方式を採用しています。

キーエンス製の除電器は全ての型式に「I.C.C.制御」を搭載しています。
「I.C.C.制御」を搭載することによるメリットは次の3点です。

  • 帯電物の帯電量を感知、帯電量に応じたイオンを発生し更に高速除電を実現
  • イオンバランスの自動調整、煩わしい初期調整が不要
  • 経時変化(電極針の汚れなど)に対してもイオンバランス0Vを維持

一般的な除電器の場合、使用する時間が長くなればなるほど電極針の汚れによって除電能力が低下してしまいます(除電速度が遅くなる、イオンバランスが悪くなるといったように除電器としての能力が劣化します)。
それに対してSJ-Eシリーズは「I.C.C.制御」を搭載することで、常に対象物に向かうイオンの状況をセンシングしてイオンの放出量をフィードバック制御していますので、経時的な能力劣化、特にイオンバランスの悪化を低減しています。

「I.C.C.制御」によるイオンバランス制御

「I.C.C.制御」によるイオンバランス制御

除電器のイオン発生方法(除電器の電圧印加方式)によって、使用できる距離、使用できない距離がそれぞれ決まっているためです。

設置距離を考えずに除電器を使用してしまうと、十分な除電効果が得られないばかりか、最悪の場合、逆帯電させてしまう場合ありますので、除電器を選定するときは、設置距離に対して最適な除電器(電圧印加方式)を選定しなければいけません。

除電対象物に近いところに除電器を設置する場合、除電器のイオンバランスに注意してください。
イオンバランスの観点から考えますと、設置距離が除電対象物と近い(300mm以内)場合は、電圧印加方式がDCやパルスDC方式の除電器は不適切です。

除電対象物に近い場所に除電器を設置する場合の注意点を教えてください。

DCやパルスDC方式の場合、+、-それぞれのイオンを発生させる電極針が図のように固定されています。
このように+の電極針の下は+イオン、-の電極針の下は-イオンしか発生していませんので、対象物との間の距離が近い場合、除電器の電極針の位置によってイオンバランスが悪くなり、除電対象物に除電ムラができることになります。

除電対象物に近いところに除電器を設置する場合は必ず1本の電極針から+イオン、-イオンを両方発生させることができるACやパルスAC方式の除電器を使用してください。

長手方向のイオンバランスデータ

図は近距離設置時の長手方向のイオンバランスデータです。パルスDC方式の除電器はこのように±400V程ノコギリ状にイオンバランスが上下しています。

除電対象物から離れた場所に設置する場合、ポイントは除電器から発生させたイオンが除電対象物に届くかどうかになります。このイオンの移動距離の観点から考えますと、設置距離が除電対象物から離れた(300mm)場合は、電圧印加方式がAC方式の除電器は不適切です。

高周波

高周波

AC方式の場合、+イオンと-イオンの発生周期が速いため、図のように発生した+イオンと-イオンが再結合してしまい、消えてしまいます。このため、イオンが遠くまで届きません。

低周波

低周波

従って除電対象物から離れた場所に除電器を設置する場合は、イオンの発生周期を遅く設定できるタイプかどうかがポイントです。
これに該当するタイプがパルスDCとパルスAC方式になります。

イオンの再結合現象の要因となるのはクーロン力です。クーロン力とは電荷を帯びた物体間に働く力で、下式であらわされます。

数式

このようにお互いの電荷量の積に比例し、距離の二乗に反比例するような性質を持ちます。
最終的にクーロン力Fの符号が+の場合は斥力、-の場合は引力が働きます。

+イオン、-イオンとはそれぞれ電子を放出、あるいは受け取って正負の電荷を帯びた空気分子のことを指します。従ってお互いが接近すると当然クーロン力(引力)が働き、結合します。結合すると電子過多状態の-イオンは電子不足状態の+イオンに電子を返却し、お互いとも空気分子に戻ります。このようにしてイオンの再結合現象が起こります。

なぜイオンの再結合現象が起こるのでしょうか?

近距離での使用の場合、除電速度とイオンバランスの観点で考えるとDC方式とパルスDC方式が不向きで、AC方式あるいはパルスAC方式が向いています。

AC方式は発生イオン量が少ない方式ですので除電速度に難点が残ります。
長距離での使用の場合は、同じ観点から考えるとAC方式が一番不向きで続いてDC方式、パルスDC方式、除電速度とイオンバランスの両方で良いのがパルスAC方式になります。

設置距離と除電器の電圧印加方式の適合性についてまとめると下記の表のようになります。除電器を選定される際に参考にしてください。

方式 近距離 遠距離
速度 バランス 速度 バランス
DC × ×
AC × × ×
パルスDC × ×
パルスAC

除電器の周波数はそのままイオンの発生周期に該当します。
従って周波数の概念は+イオンと-イオンの発生周期を可変できるパルスDC方式とパルスAC方式にしかありません。
Q11で紹介しましたように、イオンが到達できる距離はイオンの発生周期で決まりますので、設置距離に応じて最適な周波数に設定しないといけません。

近距離設置の場合

近距離設置の場合

近距離設置の場合、周波数(イオンの発生周期)は速く設定するのが通常です。
周波数を遅く設定すると図2のように+イオンと-イオンが集中し、イオンバランスが悪くなります。

長距離設置の場合

長距離設置の場合、Q11の通り、周波数(イオンの発生周期)は遅く設定するのが通常です。周波数を早く設定すると+イオンと-イオンが再結合して消滅し、除電対象物にイオンがとどきません。

推奨の周波数設定は以下の通りです。

除電速度 設置場所 設置距離(mm) 推奨周波数(Hz)

高速

低速

フィルムやシートのライン
(近距離)
50~300 68,47,33,22
クリーンベンチなど
(中距離)
300~1000 10,8,5
クリーンルームなど
天井に取り付ける場合
(長距離)
1000~2000 3,1

弊社SJ-Hシリーズの場合

実際のところ、最適な周波数は現場の環境に大きく依存します。
上記の表はあくまでも目安にして、現場の取付環境に応じて最適な周波数を設定してください。
詳細に関しては別途お問い合わせください。

周波数の設定の他の方法としては除電器に圧縮エアを供給する方法があります。
圧縮エアの物理的な力を利用してイオンを遠くまで飛ばすことになりますので、除電速度が速くなります。また、周波数を速めに設定できますのでイオンバランスも良くなります。

圧縮エアを利用した除電器の中には、除電速度向上のためだけでなく、圧縮エアを電極針の保護に使用するタイプもあります。

周波数を遅くすることで遠くまで除電できることがわかりました。更に遠くまで除電がしたい場合、あるいは除電速度を更に速めたい場合、何かいい手法はありませんか?

除電器に供給するエアは、CDA(クリーンドライエア:メッシュサイズ0.01μm、露点-25℃以下程度)をご使用ください。
供給エアの中に水分や油分が含まれていると、針先の結露やエア漏れが起こり、事故や故障の原因となります。

  • グラフ1:圧縮エアなし
    グラフ1:圧縮エアなし
    測定条件:
    ±1000V→±100Vまでの除電時間
    150mm×150mmのCPM(20pF)使用
    0.3m/sダウンフロー下
  • グラフ2:圧縮エアを利用
    グラフ2:圧縮エアを利用
    測定条件:
    ±1000V→±100Vまでの除電時間
    150mm×150mmのCPM(20pF)使用
    ダウンフローなし、エア0.5Mpa供給

上図は弊社SJ-Hシリーズの除電領域図を示します。
グラフ1は圧縮エアなし、グラフ2は圧縮エアを利用しています。

このように圧縮エアを利用すると格段に除電速度が速くなります。
(1200mmの距離を約1秒で除電できます。)

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