「安定した画像処理に必要不可欠なもの」それはレンズの特徴を知り、使い方にあった最適なレンズを選定することです。レンズは形や材質から様々な特徴に分類され効果も異なります。今回はレンズ誕生から現在の形になるまでの歴史をご紹介します。
レンズ(lens)の呼び名は、かたちが凸レンズに似た地中海原産のレンズ豆に由来します。日本語化した外来語の一つですが、敵国語とされた第二次大戦中は「透鏡」(とうきょう)と呼ばれました。
源流は古代文明の水晶玉やガラス玉にあると言われ、宗教儀式の火を起こす道具や装飾品として使われました。約2000
年前、古代ローマの哲学者・セネカが「水晶玉で文字が拡大して見える」と記録したのが、レンズの事始めとされています。
レンズの働きは、光が進む向きを変える「屈折」の原理を利用しています。球面状に中心部が膨らんだ凸レンズは、光を集めます。反対に、すり鉢状で周辺部が厚い凹レンズは、光を広げる働きをします。
レンズは、二つの道で発展を遂げてきました。一つは日常的に身につけるメガネ、もう一つは顕微鏡や望遠鏡、カメラなど用途別の道具です。
13世紀に実用化された最初のメガネは、凸レンズの老眼鏡です。当初は「悪魔の道具」と言われました。
やがて、二つのレンズを使う両眼メガネが登場し、16世紀には凹レンズの近視眼鏡が発明されます。
顕微鏡と望遠鏡は、どちらが先でしょうか。正解は、16世紀末に発明された顕微鏡です。
その後、イギリスのフックが凸レンズ2枚(対物レンズと接眼レンズ)の複式顕微鏡を開発し、ほぼ同時期にオランダでは単式顕微鏡が誕生しています。
望遠鏡は17世紀、オランダのリッペルスハイが対物レンズに凸レンズ、接眼レンズに凹レンズを使って発明しました。それをすぐに改良して天体観測に使い、土星の輪を発見したのがガリレオです。
ドイツの天文学者・ケプラーも、対物・接眼ともに凸レンズを用いたケプラー式望遠鏡を考案しました。
凹凸レンズには、さまざまな種類があります。
表面が球形の球面レンズと曲面加工した非球面レンズ。かまぼこ型のシリンドリカルレンズやドーナツのかけら状のトロイダルレンズ、洗濯板みたいなフレネルレンズなどです。
これらはすべてレンズの表面で光が屈折しますが、表面ではなくレンズ本体に屈折率の勾配をつけるグリンレンズ(屈折率分布レンズ)や、光の波が広がる現象を利用する回折レンズもあります。グリン
レンズは内視鏡に、回折レンズはCDやDVDなどに利用されています。
表面屈折を利用したレンズ | 球面レンズ |
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非球面レンズ | |
シリンドリカルレンズ | |
トロイダルレンズ | |
フレネルレンズ |
表面屈折以外のレンズ | グリンレンズ(屈折率分布レンズ) |
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回折レンズ |
下記はいずれもレンズ表面での屈折を利用する
初期のレンズ・水晶は、簡単には手に入らない高級品でした。12世紀に加工技術の向上でガラスレンズが増え始め、19世紀に透明性の高い光学ガラスレンズが発明されました。
20世紀の主役となった光学レンズは現在、200種類を超えますが、屈折率が小さいソーダ石灰系のクラウンガラスと、屈折率が大きい鉛系のフリントガラスに大別できます。
光学プラスチックレンズは、20世紀初頭に登場します。当初は透過率と屈折率が低く、1940年代に熱硬化性プラスチックが開発されてから普及します。
その後、光学ガラスに匹敵する透明度で、重さが半分の熱可塑性プラスチックも登場します。軽くて成形が簡単、割れにくくて安価なプラスチックレンズは、コンタクトレンズやインスタントカメラを誕生させ、近年はメガネや携帯電話のカメラにも利用されています。
他にも石英や蛍石、光を透過するセラミックス、赤外線を通す岩塩やシリコン、ゲルマニウムなども材料に使われています。
屈折率 | アッペ数(分散) | 材質の特長 | |
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クラウンガラス | 小さい | 大きい(小さい) | 硬くて軽い |
フリントガラス | 大きい | 小きい(大さい) | 柔らかくて重い |
レンズ1枚を単式、複数レンズの組み合わせを複式と呼びます。
1839年に最初の銀塩カメラ・ダゲレオタイプが発明されて以来、複式のレンズ技術は飛躍的に向上を遂げます。
2枚のメニスカスレンズを接合し対称に配置するダビッドソンタイプ、撮影時間の短縮をもたらしたペッツバールレンズ、その進化形である3枚分離式のトリプレットタイプやテッサータイプ、ゾナータイプなどです。
20世紀に入ると、ズームレンズが登場します。単焦点レンズに対して、焦点距離を変えられるズームレンズは、標準・広角・望遠による広い視界と高倍率を併せ持つ高機能レンズへの転機となりました。その後、さらに高倍率化、軽量コンパクト化が進んで多様なバリエーションが生まれ、レンズもシステム化の時代へと突入しています。
赤色LEDレーザー光線を読み取るCD-ROMのコリーメータレンズやレーザープリンタの走査レンズ、バーコードや内視鏡に使われる光ファイバースコープ…。
現代のあらゆる電子機器に、レンズは活用されています。ミクロン単位の半導体加工を可能にする最先端のステッパー(逐次移動型投影露光装置)の投影レンズは、最高級の合成石英を幾重にも重ねた精密レンズで、「レンズの王様」とも呼ばれています。
最後に一つ、クエスチョンです。「歴史上、最も優れたレンズは?」。答えは、厚みを自在に調節し適切な焦点距離にする「人間の眼(水晶体)」です。実はこの水晶体をお手本に、開発が進む最新レンズがあります。流体レンズです。
導電性と絶縁性、屈折率の異なる2つの流体に電圧をかけ、表面張力の厚みや形状で自由に焦点距離を変えるしくみです。1枚のレンズだけで、ピント合わせのメカニックや駆動装置が不要なため、家電製品から医療機器、セキュリティ分野まで幅広い用途が可能になると期待されています。