コラム3Dプリンタが医療現場に革命をもたらす?現状の課題と今後の可能性
2016年1月20日、中央社会保険医療協議会(中医協)は3Dプリンタで作製した臓器立体モデルによる手術支援について、これまで脊椎の一部にのみ限られていた保険適用の対象を骨格全般へと広げることを承認した。
臓器モデルによる手術支援など、医療の現場に革命をもたらすとも言われる3Dプリンタ。本記事では、その現状と将来の可能性について探ってみる。
3Dプリンタによる精密な臓器モデルを用いた手術支援
近年、医療現場において特に注目されている3Dプリントの活用は、CTやMRI画像などのデータをもとに立体の臓器モデルを作製し、それを用いて手術のシミュレーションを行うなどの「手術支援」である。
精巧な患者の臓器モデルが作製できれば、より正確なシミュレーションが可能となり、手術の安全性や確実性も高まる。ただ臓器モデルの作製には、3Dプリンタにも高い精度が必要となる。また、臓器の内部を見せるためには透明素材が必要だったり、血管をわかりやすく着色したりなど、使用する素材や機能の面でもさまざまなものが求められる。結果、臓器モデルは高価なものとなり、患者ごとに作製することは難しくなる。
だが、この臓器モデルに保険の適用が可能となれば、この「コスト」の問題に、一つの解決作が生まれることとなる。今回は、骨格モデルの適用だが、将来的にはさまざまな臓器についても適用範囲が広がり、多くの医療現場にて3Dプリンタが活躍するだろう。
歯科医療における市場は2020年に31億ドル(約3,813億円)
現在、急速に3Dプリンタの普及が進んでいる医療分野は歯科医療である。歯型のスキャンデータから樹脂製の正確なモデルを造形して金属製の鋳物を作製するなど、すでに実際の治療に利用されているケースも多い。
2015年6月にハイテク産業市場調査会社である米国スマーテック・マーケティング社が発行した「3Dプリンティング産業レポート」によると、2020年には歯科医療の3Dプリンタ市場は全世界で31億ドルに達し、2024年には45億ドル(約5,535億円)に到達すると予測している。歯科医療は3Dプリンタとの親和性が高い分野とも呼ばれており、今後も市場規模は確実に広がっていくことだろう。
医療における3Dプリンタの活用は、さまざまな面において大きな革命をもたらす可能性を秘めている。臓器モデルではなく、iPS細胞などから実際の臓器を3Dプリンタで作製する試みも開始されているという。この試みは、実現にはまだまだ時間がかかることが予想されている。当面、医療現場における3Dプリンタの活用は、前述した臓器モデルや歯科技工の面が主流となるだろう。
使用できる色や素材、機能や精度など解決すべき課題は残るが、これらがクリアされていけば、3Dプリンタは医療の発展に大きく貢献していくはずだ。
参考サイト
「3Dプリンタによる臓器モデル」に保険適用(日経デジタルヘルス)
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/012400266/?ST=ndh
NEDO、バイオ3Dプリンティングなどの立体造形技術を用いた組織・臓器の開発に着手---
―骨や血管、心臓などを製造(日経デジタルヘルス)
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20141107/387521/?ST=ndh
※ips細胞の話はこの記事を参考に盛り込んでいます
歯科技工所でフル稼働する3Dプリンタ(日経テクノロジー)
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20130725/294140/?rt=nocnt
スマーテック・マーケティング、歯科医療での3Dプリンタ市場が2020年に31億ドル規模に成長と予想(世界の3Dプリンタニュース)